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東京地方裁判所 昭和34年(ワ)96号 判決 1960年12月16日

主文

被告四方田喜一は原告に対し、金二二三万一、二五〇円及び内金二一〇万円に対する昭和三四年一月一八日から、内金一三万一、二五〇円に対する同年三月二六日から各支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。

原告の被告四方田喜一に対するその余の請求及び被告四方田園子に対する請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告四方田喜一の各負担とする。

この判決は原告勝訴の部分に限り原告において金五〇万円の担保を供するときは仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは原告に対し各自金二一〇万円及びこれに対する昭和三四年一月一八日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。被告四方田喜一は原告に対し金三〇万円及びこれに対する昭和三四年三月二六日から支払ずみまで年六分の金員を支払うべし。訴訟費用は被告らの負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、その請求原因及び被告らの抗弁に対する主張として次のように述べた。

一、被告四方田喜一は昭和三三年一月一一日、被告四方田園子を受取人として別紙手形表(一)記載の約束手形(以下(一)の手形という)一通を振出し、被告園子は拒絶証書作成を免除してこれを原告に裏書により譲渡した。もつとも右(一)の手形の受取人は当初原告中田文吉郎の氏名が記載され裏書の連続を欠くものであり、右手形が原告に交付された趣旨に反した明らかな誤記であつたので被告喜一は原告の求めにより昭和三三年六月頃受取人の氏名を「四方田園子」と訂正したので、これにより裏書の連続した完全な手形となつた。

次に被告喜一は昭和三三年八月一一日原告を受取人として別紙手形表記載の(二)及び(三)の約束手形(以下(二)(三)の手形という)各一通を振出した。

そこで右各手形の所持人となつた原告はいずれもその満期に各支払場所に支払のため呈示したがすべてその支払を拒絶された。よつて原告は被告両名に対し各自右(一)の手形金二一〇万円及びこれに対する本件訴状(第九六号事件)送達の日の翌日である昭和三四年一月一八日から、被告喜一に対しては右(二)(三)の手形金合計三〇万円及びこれに対する本件訴状(第九七号事件)送達の日の翌日である昭和三四年三月二六日から、各支払ずみまで年六分の商事法定利率による遅延損害金の支払を求める。

二、仮りに(一)の手形の裏書は被告園子のしたものでなく、被告喜一によつてなされたものであるとしても、被告喜一は被告園子の代理人としてその代理権にもとづいてしたものであるから被告園子は(一)の手形について裏書人としての責任を負うものである。

三、仮りに被告喜一に被告園子を代理して右(一)の手形を裏書する代理権がなかつたとしても、被告喜一は同園子の同居の実子で被告喜一が原告より本件(一)の手形振出の原因である金員二一〇万円を借受けるにあたつては、原告に対し再三被告喜一のための金融方を懇請し、その債務の支払については右喜一と連帯してその保証債務を負うべきことを承諾し、金員交付に際しては金銭消費貸借公正証書作成のための被告喜一と共に連署の上自ら実印を押捺した委任状を被告喜一に渡し、これによつて原告との間で公正証書を作成すべきことを委任したのである。たまたま被告喜一は右委任による代理権の範囲を超え被告園子にかわり本件(一)の手形の裏書をしたものであつて、原告は被告喜一の右裏書行為は代理権にもとづくものと信じたのであり、前記のような事情のもとではかく信ずるにつき正当の理由を有するものであるから被告喜一の右行為は被告園子についてその効力を生じたものといわなければならない。

四、仮りに右主張が理由がないとしても、被告園子は昭和三三年一〇月頃原告代理人南正雄に対し右(一)の手形の裏書を認め、満期に支払う旨確認しているのであつて、これによつて右裏書を追認したものである。

五、被告らの主張のうち、本件(一)の手形が借用証代用として交付されたものであること、本件各手形振出の原因債権が代物弁済によつて全て消滅していること、原告が昭和三三年一月一一日被告に貸付けた二一〇万円の債権も被告主張の家屋によつて担保され、被告主張の代物弁済によつて右債権も消滅したとの事実はいずれも否認する。その余の事実は認める。被告主張の代物弁済はその主張にかかる金九〇万円の債権に対してであつて、本件には関係ない。

被告両名訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として、次のように述べた。

一、被告喜一としては、原告主張の日時にその主張のような各手形を振出したこと、(一)の手形については原告主張の経緯で受取人を「四方田園子」と訂正したことは認めるがその余の事実は否認する、被告喜一は(一)の手形について被告園子名義で裏書したこともなく、また裏書する代理権もなかつた。

二、被告園子としては原告の主張事実を全部否認する。同被告は被告喜一から原告主張のような(一)の手形の振出交付をうけたこともなくまた被告喜一に右手形の裏書の代理権を授与したこともない。右手形における被告園子の裏書は偽造であつて、これによつてなんらの義務を負うものでない。

三、右(一)の手形は被告喜一が原告の求めにより金員借受に際して借用証書代用として原告あてに振出し交付したもので、手形として有効に振出、裏書されていないものであるから被告喜一はこれが支払の責はない。

四、仮りに右(一)の手形が有効に振出裏書されたものであつたとしても、右(一)の手形を含む本件各手形はそれらの原因である原告の被告喜一に対する貸金債権は、次のように既に消滅しているから原告の被告らに対する本件各手形金の請求は失当である。すなわち、被告喜一は昭和三二年一月一三日原告から金二〇〇万円を弁済期同年一二月二八日利息月四分の約で借受け、右金員と当時既に借受けていた金三〇万円(昭和三一年七月三〇日借受利息月四分、弁済期一年後の約)との合計金二三〇万円の債務を担保するため、被告喜一所有の別紙物件目録記録の家屋(以下本件家屋という)を目的として抵当権設定契約及び停止条件附代物弁済契約を締結し、ただ原告の希望により登記簿上は被担保債権は二〇万円として昭和三二年一月一四日抵当権設定登記及び右代物弁済契約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。右債務金中三〇万円は弁済期である昭和三二年七月三〇日弁済し、改めて同日八〇万円を前同様月四分の利率で借受け、右借受金と前記二三〇万円の借受金中の未払い分二〇〇万円との合計金二八〇万円について、本件家屋についての前記抵当権登記及び所有権移転請求権保全の仮登記を利用し、その被担保債権額を二八〇万円の元利金とした。右二八〇万円中二〇〇万円は同年一二月二八日に弁済し、残金八〇万円については、その八〇万円に、それに対する同年一二月分の約定利息及び将来借受予定であつた二〇〇万円についての前払利息を加えた九二万二千円のうち一万二千円を支払い九〇万円として、その九〇万円につき同年一二月三〇日準消費貸借契約を締結し、前記各登記を利用しその被担保債権を九〇万円としたが、更に昭和三三年一月一一日、二一〇万円を弁済期同年一二月二五日、月四分の約定利息で借受け、その支払のため本件(一)の手形を振出したのであるが、これにつき前同様本件家屋についての前記各登記を利用し、その被担保債権を前記九〇万円との合計金三〇〇万円の元利金とする特約をした。その後同年八月一一日に被告喜一は原告との合意により、右借受金合計三〇〇万円に対する約定利息月四分の割合による同年八月一日より同年一二月末日までの利息金合計六〇万円中その半額金三〇万円について、その支払のため本件(二)、(三)の各手形を原告宛振出したものである。しかるに原告は同年八月一三日、被告喜一に対する前記貸付元金三〇〇万円及びこれに対する右同日までの利息金について、さきに締結した前記停止条件附代物弁済契約にもとづき本件家屋に対し代物弁済の権利を行使し、次いで同年八月一九日右仮登記にもとづく所有権移転の本登記を経由した。従つて原告主張の各約束手形金債権は右代物弁済により消滅したものであるから原告の本訴請求は全て失当である。

五、仮りに右主張が理由がないとしても本件(二)(三)の各手形は前記の如き経過で振出されたものであるが、利息制限法によれば法定利率は元金三〇〇万円については年一割五分以内であり、元金三〇〇万円についての八月一日から一二月末日までの利息は一八七、五〇〇円であるべきところ、右の手形金合計三〇万円は月四分の利息金の半額についてのものであり、利息制限法に定める制限利息を経過するものであつて無効であるから、原告の本件(二)(三)の手形金の支払を求める請求は不当である。

(立証省略)

(別紙) 手形表

<省略>

物件目録

東京都杉並区荻窪三丁目一一三番地

家屋番号 同町三三〇番の四

一、木造亜鉛葺二階建店舗一棟

建坪 一一坪二合九勺

二階 九坪七合六勺

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